自分の部屋がだんだん嫌になってくる
10代の後半、ひきこもりだった時期があります。
「モラトリアム」と言うのを体感しながら精一杯あがいていた時期です。
日がな一日インターネットをしたり、ケーブルテレビを見たり、漫画や本を読んだりする日々でした。
ひきこもりをしていると生活は想像の通りとても乱れます。部屋にゴミや脱ぎ散らかした服や読み終わった本が散乱します。たまーに謎のやる気が出た日に気まぐれで片していたのですが増えていく本に悪戦苦闘していました。うちの近所にはBOOKOFFがあったので毎月のお小遣いはほぼBOOKOFFに消えていました。それも50円や100円コーナーでしか買わないので月に100冊ペースくらいで増えます。自室にあった大き目の本棚もあっという間に埋まってしまって床には本が散乱していました。その本もやる気が出た時に積んだりするのですがいつのまにか崩れてゴミや脱ぎ散らかした服と同化してそれもうひっちゃかめっちゃかな部屋でした。
わたしは見つめている本やテレビ、パソコンから目を離すのが嫌でたまりませんでした。
部屋を見るとぐちゃぐちゃの部屋が広がっていてそこに広がったせんべい布団で寝るのもごみの中で寝ているようでとても落ち着かなくて自分の部屋が嫌いでした。でもモラトリアムの脱出方法もいまいちわかっていなかったので部屋から出る事が出来ません。
夢の中のような、押し入れ
そこでわたしが思いついたのは「もっとひきこもる」と言う事でした。
押し入れの中で寝る事にしたのです。押し入れの中なら部屋を見なくて済む…
そう思って押し入れの上段にある衣装ケースを通り出して部屋の隅に積むとそこに布団を移しました。
そしてその中に寝転びます。そして襖を閉めます。真っ暗な空間が広がり、夜の闇の中では光など全く入ってきません。
当時は心療内科が一般的になってきた頃でひきこもりのわたしも言わずもがな心療内科へ行かされていました。そこで貰った睡眠薬を飲んで夢の中に落ちるのはとても気持ち良かったのです。
暗闇の中ではすぐそこにあるはずの天井がどこにあるのかわかりません。手を伸ばしても自分の手がどこにあるかわかりません。自分がいるのかどうかすらわかりません。睡眠薬で夢うつつになれば三半規管がおかしくなるのでしょうか右も左も上下もあやふやになってきます。まるで無になったような、死んでしまったような、それでいて落ち着く居心地のいい空間でした。ふわふわの中で「ドラえもんでも来ればなー」等と夢見事を考えていました。だって押し入れの中で寝ているというだけでそれは夢の中にいるような事なので、もしかすると叶うかもしれないと思っていました。
わたしは押し入れが大好きな場所になりました。毎晩、寝るときは押し入れで寝るようになりました。
押し入れに、青い人が来る…
ある日、わたしは些細な事で家族と喧嘩しました。ひきこもりと言っても家庭仲は円満でただ部屋にこもっている中途半端なひきこもりだったのでリビングで家族と食事をとっていたりして今考えるとひきこもりというよりただの無職だったのかもしれません。それを揶揄されたか何かで喧嘩になりました。とても怒って悲しくて傷つきました。
「もう知らない!!」と言って部屋に戻り勢いよくドアを閉めます。
ただ感情のぶつけ口がないわたしはもう今日は睡眠薬を飲んでたくさん寝よう!と自暴自棄になりワンシートの睡眠薬を流し込むと押し入れに篭り寝はじめたのです。
あれからどれくらいたったのでしょう。知らない男の人に揺さぶられて目が覚めました。
「おい大丈夫か?!」
「……え?」
わたしの押入れを開けてわたしの顔を覗き込んでいたのはあの青い……。
……警察官でした。
家族はわたしの部屋に入った事がないのでわたしが押し入れで寝ていることを知りません。そんな中で部屋にいる部屋から出てこない私を心配し声をかけても反応がない。翌朝、そーっと部屋を開けてみるともぬけの殻。時間は朝の五時。いくら呼んでも睡眠薬で落ちている私には届かない。喧嘩をしてひきこもりで心療内科にも通う精神不安定な我が子は家出をしたに違いない!と勘違いした母。警察に通報をし、警察が家まで来たそうです。手がかりがないかと部屋に入った所、押し入れから聞こえて来た寝息。警察官が押し入れを開けるとわたしが寝ていた、という事です。
「あんた!なんてとこで寝ているの!」と母。わたしたちは警察官に笑われて警察官は帰っていきました。
押し入れで寝ているとドラえもん、青い狸は来ない。青い人が来るのだな。と勉強になった出来事でした。
今はモノが増えてしまって押し入れで寝られないけど、あの時の押し入れはとても居心地のいい空間でした。わたしにとって居心地のいい空間とは「闇」のようです。今でもたまに漫画喫茶マンボーの真っ暗に出来る部屋に行くことがあります。押し入れ以上に広くて真っ暗が広がってとてもお気に入りのお店です。しかし、その漫画喫茶で数年前立てこもり事件がありました。事件の闇までここにあり、ここにまで警察官が来たのか…と思います。
もしかすると今、うちで唯一真っ暗にできる空間「窓のないトイレ」にもそのうち警察官が来るかもしれません。
せめて用を足してない時に来てほしい。切にそう願います。
この記事を書いた人

野口み里
1985年6月30日生まれ。かに座のO型。大体、寝起き。
短歌、小説、エッセイ、なんでもかんでも書く人。
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